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【臨床心理士コラム】しつけとこどもの本質

前回のコラムで、しつけはこどもが守るものではなくて、大人が守る社会の枠組みであることを書きました。では、こどもから見て、社会の枠組みとはなんでしょうか?今回は、こども目線からしつけについて考えてみたいと思います。

はじめに

こどもにとって社会の枠組みとはその範囲以外はしてはいけないという不自由であると同時に、その範囲の中でなら何をしてもいいという自由を意味しています。
しかし、日常私たちが法律のことを考えながら生きていないように、こどもも自由を感じている間は、社会の制限や枠組みについて意識することはないと考えるのが自然です。

不自由を感じたとき、こどもは不安と恐怖を覚えます。そしてその不安と恐怖を解決するために自らの行動を選択します。こどもが不安や恐怖にかられて、私たちからみると困った行動をとることもあります。そのような時の対処や考え方は、ノートにまとめてみました。参考にしてください。

こうして、こどもは何もわからないまま行動します。しかしその不自由にも見通しがたつことがわかってくれば、不自由にも落ち着いて対応ができるようになります。この時、どうしてこどもは不自由に見通しがたつことがわかるのでしょうか?

それは、そばで見守り、ときには適切な方向に誘導してくれるあなたがいるからです。こどもは、あなたが不自由に直面しても落ち着いて対処できることを知っています。だからこどもはあなたの様になろうとします

しつけはこどもがあなたをインストールしていく過程だと考えれば、こどもにわかりやすく、やりやすいことをあなたが実践している方がインストール時間は短くなります。
そのためにもこどものことをよく知り、こどもに合わせた生活習慣をこどもに伝えていくことが重要です。

しつけとは

遊ぶ兄弟

こどもにとってしつけは、自分にはどうしようもできない壁のひとつです。高いところに手を伸ばしても手が届かないとき、こどもは泣きます。同じように、自分のやりたいことをさせてもらえないとき、こどもは泣きます。

手の届かない高さに手を伸ばして泣いているなら、もしかしたらあなたは優しく笑いながらこどもの欲しいものをとって渡してあげるかもしれません。しかし、それがこどもが飲み込んで危険なものだから高いところにおいているなら、絶対に渡すことはないでしょう。

こどもは理由を理解できないことがあります。すると、こどもからすれば、あなたが意地悪をしているように見えますしつけの場合は、こどもができると思っていることができません。しかも、例えば「今日は玩具を買えない」なんて理由は、こどもからしたら納得できません。より一層意地悪にみえます。

では、しつけはこどもにとって辛いものでしかないのでしょうか?

例えば、何気なく玩具屋さんの前を通ってこどもがだだをこねなかったとしたらどうでしょう。こどもからしたら、別のことに気がいっていただけかもしれません。
ところが、大人から「ちゃんと我慢できてえらい!」と誉められることがあります。こどもはある範囲内で行動すると誉められるということを理解できると、積極的にその範囲内で活動しようとします

4、5歳に靴をならべるなどの生活習慣を身につける敏感期がありますが、それも単に認知能力の発達の結果として考えるのでなく、大人との関係の中で成立していると考えた方がいいと私は思います。

こうして、こどもは自分の行動によって自分に悪いことをしてくるあなたと、良いことをしてくれるあなたが現れることを理解していきます。しつけの内と外、そのどちらにもあなたつまり大人が存在していることがとても重要です。

こどもにとってしつけとは、自分にとって大切な大人をコントロールする取扱い説明書だと言えます。

わがまま?元気?

3人家族

こどもが不自由を経験しているときを考えましょう。元々、こどもはこの世界で何ができて何をしてはいけないかを知りません。とにかく自分にできることを精一杯やって生きています。

このとき、自分がしているという実感と、これは誰か・何かによってなされているという実感とを振り分けながら物事を体験しています。そしてこどもは、自分がやっているという主体性と、自分がここにいても大丈夫という安心感を大きくすることを目的に物事を評価しています

こどもが不自由を経験しているとき、その体験の評価は低くなります。目的にむかってもっと主体的に活動したい、もっと安心したいという欲求が強まります。その結果、とにかく自分ができることをします。

このとき、大人にはどう見えるでしょうか?

大人がこどもの行動を受け入れられるときは、その行動はこどもが元気な証拠です。こどもは自分を主張し、成長しているように感じます。

一方、大人がこどもの行動を受け入れられないときは、その行動は困った行動であり、こどもはわがままでまだまだ未熟な証拠です。

この違いは、こどもにありません。大人側の価値観です。こどもにとっては、不自由な状態を抜け出るために自分なりのやりかたで、奮闘しているだけなのです。

安心感と主体性

正座の後ろ姿

これまでのブログやノートでも、安心感と主体性というキーワードを書いてきました。私は心理的な課題は、このテーマに集約されると思って日々こども達と関わっています。

安心感と主体性は体験の裏表であり、本質的には同じものです。

こどもは、自分がここにいてもいい存在であり、自分で行動していい存在であることを求めます。その中で、時とともにいつもその欲求が満たされるわけではないことを理解していきます。
逆にいえば、一時的に欲求が満たされなくても、また満たされるようになることも理解していきます。

なぜ、一時的に安心感や主体性が損なわれても回復できるのでしょうか。それはあなた、つまり大人がいるからでした。

大人はこどもの不安を感じると、その不安を取り除きます。しつけの場合も同じです。逸脱した行動は止めますが、枠組みの範囲で行動することを励まします。

こどもからすれば、あなたを見ていると、どうやって行動すれば安心感と主体性を回復できるかがわかります。そこでこどもはあなたに関心を持ちます。あなたのように生きることを求めるようになります。
あなたがどのような生活習慣の中で生きているのか、あなたが不自由を感じたときどのように対処しているのか、そのやり方を吸収していきます。

大事なのは、不自由を感じたときに私たち大人がどうしているかです。
不自由を感じてはいけないとなってしまうと、こどもはしつけの枠組みの中にいないと不安でしかたがなくなります。すると、枠組みの中にいても、いつか失敗してしまうのではないかと不安がなくなりません。

私たち大人が、失敗しないのではなく、失敗してもやり直せることを実践とともにわかりやすくこどもに伝えていくことが大切です。

最後に

しつけをこどもの視点から、安心感と主体性というテーマから考えました。こどもは安心感と主体性のために私たち大人の生き方を学んでいきます。あなたはどのように生きていますかこどもは私たちのしつけを通して、私たちに問いかけています。

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この記事を書いた人

川北 一征

川北 一征

臨床心理士・公認心理師

臨床心理士・公認心理師。1988年生まれ。大阪府出身。大学院終了後、児童福祉施設の心理士として勤務。こどもの心理治療や保護者、保育士の相談業務に携わっている。一男の父。

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